株式会社Physical Wave Resonance 代表取締役 山岸氏

理学療法士で、株式会社Physical Wave Resonance代表の山岸茂則氏は、シューマートにとって十年来の信頼あるパートナーだ。始まりは、一人の患者の来院だった。足の親指の関節が曲がらない強直母趾で歩行に苦労していた女性を、施術と靴の両面から支えたところ、旅行へ出かけられるまでになった。以来、理学療法士の視点とシューマートの視点が交わり、足を入り口に身体全体を見立てる取り組みが根を張ってきた。

山岸 茂則(やまぎし しげのり)
株式会社Physical Wave Resonance 代表取締役。SONA TAKADA 院長。理学療法士、呼吸療法認定士、アスレティックトレーナー。飯山赤十字病院などで理学療法士として勤務したのち現職。オーソティックス(足の状態に合わせて作る足底装具)の作製と施術を通じて、足を起点に全身を整えるケアに取り組む。長野市高田に拠点を構え、シューマートとは十年以上の信頼あるパートナー先。

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杵淵 弘樹(きねぶち ひろき)
株式会社シューマート 企画部長。戦略推進室長、メディア事業担当、足育事業担当を兼ねる。足と靴と健康協議会公認シューフィッター(No.5887)、幼児・子どもシューフィッター。米国北西足病医学研究所FitPROシステムスペシャリスト、NLP神経言語プログラミング国際ライセンスを保持。子どもから大人まで、足に合った靴選びと足育の普及に取り組む。

一人の患者から始まった十年

株式会社Physical Wave Resonance 代表取締役 山岸氏(左)、シューマート 企画部長 杵淵(右)
株式会社Physical Wave Resonance 代表取締役 山岸氏(左)、シューマート 企画部長 杵淵(右)

── まず、協業の入り口になった出来事を聞かせてください。

山岸氏 発端は、シューマートさんの紹介で来られた一人の患者さんでした。当時、私は飯山赤十字病院にいまして、女性が病院のリハビリ受付を訪ねてこられたんです。その方は、強直母趾といって、母趾の関節が曲がらない状態でした。

病院のリハビリには医師の指示が要りますから、その日にすぐ診るわけにはいかない。まず整形外科にかかって処方を受けてもらい、何度か拝見しました。ただ、関節が曲がらない以上、施術だけでは足の動きは戻りません。

靴底が船底のように丸く反り、母趾を曲げなくても足が前へ転がる「ロッカー構造」になっている靴でないと、正常な蹴り出しができないんです。それで、シューマートへ一緒に行って靴を選びました。その後、旅行に行けるまでに回復されてずいぶん喜んでくださって。

── そこから、協業に広がっていった。

山岸氏 コラボしませんかと声をかけてくれたんです。SONA(※)がオープンして間もない頃、小さなベッドをシューマート店舗内に持ち込んで一緒に無料相談会を開かせてもらいました。あの一声がなければ、この話は始まっていません。あれからもう十年以上になりますね。

※山岸氏が代表を務める株式会社Physical Wave Resonanceが運営する施術施設のこと

靴にはない視点、施術にはない現場

── 実際の連携はどんなやりとりで動いているんですか。

山岸氏 私たちの手元に靴はありませんし、店舗にどのような靴があるか詳しくわかりません。信頼関係ができてからは『あしる(※)』へ足を運んでみてください、とお伝えするだけで安心してお任せできます。はじめの頃は、シューフィッターさんと直接連絡をとり、「この患者さんをよろしく」と繋けるよう心掛けました。

今はパンフレットに私の名前を書いて渡す形に落ち着いています。良い靴を選んで終わりではありません。インソールを入れてしばらく歩くと足が緩んで靴の中で前後に動き始めるから、そこでもう一度、靴ひもを結び直した方がいいといった履き方の助言もそう。一般的な市販の靴は形が決まっていますから、道具で少し広げたり、フラットな中敷きを足したりもそう。こうした細かな調整で「楽になった!」という声が返ってきます。

※シューマート店内に併設されている足と靴の専門家シューフィッターが常駐するカウンセリングサロンのこと

── シューマート側がインソールを扱うようになって、関係も変わってきた。

山岸氏 インソールを扱い始めてから、シューマートさんを紹介したい方の幅が広がりました。そうした橋渡しの部分が増えて、お互いの知識が重なるところでコラボ感が出てきたと感じています。

私自身、イベントでシューマートさんの接客の様子にふれて勉強になりました。お客様への説明の所作ひとつとっても学びがある。当院のスタッフは皆、病院で働いてきた人間です。シューフィッターの方々の所作を無意識に吸収して、良い勉強になっていると思います。

── 患者さんとお客様は、やはり違いますか。

山岸氏 私たちも無形の商品を買っていただく立場ですから、根っこは同じだと捉えています。施術は形のない商品です。それを選んでもらっている。そう考えると、店頭で学べるものは多いんです。

靴屋の目線と、治療家の目線が重なるとき

株式会社Physical Wave Resonance 代表取締役 山岸氏(左)、シューマート 企画部長 杵淵(右)

── 杵淵さんの立場から、現場に持ち帰って生きたものがあれば聞かせてください。

杵淵 我々は靴の小売店なので、小売店目線でのお客様対応がベースになります。そこへ理学療法士さんの目線が加わる。販売とは違う対応の仕方であったり、ものの見方が明らかに違うんです。

体軸であったり、ケアの視点でお客様を見られる。我々が持ち合わせない知見でした。靴屋として届く範囲は、いわば部分最適です。身体全体のバランスまでは踏み込めない。そこを補っていただいて、お客様と長く繋がれるようになった。ここは本当に大きかったと思います。

── お客様からの信頼も、確かに厚みを増しましたね。

杵淵 しっかりと信頼が確立されていった実感があります。靴屋が抱えていた領域を、専門的な治療者の視点が支えてくれる。お客様の側にも、ここへ来れば身体まで見てもらえる、との安心が生まれたはずです。

歯の検診のように、足にもかかりつけを

── 予防や未病への関心が高まっています。足と健康について気づいた点を、どこに相談していいか分からない若い母親世代にも届く形で聞かせてください。

山岸氏 私の娘は三歳の子どもを育てている母親です。仕事に家事に忙しいからこそ良い靴を選び、インソールを入れています。抱っこひとつとっても、足もとが整うと体が軽いし楽なんですね。足は体のあちこちと繋がりが強いので、足が不安定だと力が入りにくく、体も硬くなります。

足裏には、臓器や器官と対応するとされる部分「反射区」が実際にあって、負担がかかっている場所を押すと痛いです。そこから婦人科系の不調へつながる例も本当にあります。不調があるから足に目を向けるのではなく、足が原因であらゆる症状が出てくる。だから歯の検診と同じで、定期的に足を診て、手入れをしていく発想が必要だと思うんです。

歯の矯正が必要な人がいるように、生まれつき足を支え続けなければならないタイプの方もいます。これは病気ではありません。ただ、自分では気づけない。放っておくと将来に影響が出ると、目に見えて分かる場合もあります。

定期的に足を診てもらい、自分の足の型を知って、良い靴を選ぶ。そうするうちにお客様自身の知識が高まり、正しく良い靴を選べるようになっていきます。足の検診の仕組みとして機能していけばいいと思っていて、歯医者へ通うのと同じ感覚で、足のかかりつけになっていけたら理想的ですよね。

お母さんの足もとから

株式会社Physical Wave Resonance 代表取締役 山岸氏(左)、シューマート 企画部長 杵淵(右)

── 最近はファーストシューズの選び方の相談も多いと聞きます。これから力を入れたい方向も含めて聞かせてください。

杵淵 お子さんの足への関心が高まっていて、「初めての靴を選ぶときのポイントを教えてほしい」とのご相談がまず多い。子育て支援センターや地域行政・団体等からの講演依頼も増えました。

シューマートには幼児子どもシューフィッター資格をもつスタッフもいるので、その知見をもとに「三十歩、三メートル以上をしっかり歩けるようになってから靴を選んでください」と。それまでは足がどんどん変わりますから、慎重に。歩き始めてから選ぶ。ここをまず一つ、お伝えしています。

以前、御社の理学療法士さんから教わった話も紹介しています。妊娠中はリラキシンと呼ばれるホルモンが出て、出産に向けて骨盤を緩めます。実は骨盤だけでなく、かかと周りも緩むんです。

「妊娠中や産後に外反母趾になる方が増えますから、産前産後は骨盤だけでなくかかと周りのケアも要るんです。お母さんの足もとも一度チェックさせてください」とお伝えする場面が増えました。

山岸氏 室内履きも侮れません。室内でもインソールが必要な方がいます。なので、シューマートさんに室内用インソールの品揃えがあるのはありがたいです。

子育て世代は台所に立つなど、家の中で過ごす時間が長いですからね。妊娠後期になると体中が緩んで、体重も増えます。そこで崩れてしまわないよう、止めておかないといけません。

妊娠後期はもう足が変わっているので、私たちは「オーソティックス(※)」を新たには作りません。出産前に整えるか、産後、崩れて背中や腰、足が痛むようになってから拝見して作ります。こうした情報が、少しずつ行き渡っていくといい。今はまだ草の根の活動ですけれど。

※足の状態に合わせて作る足底装具のこと

足の指先から、体はほどける

株式会社Physical Wave Resonance 代表取締役 山岸氏

── 山岸先生がいま着目している点を聞かせてください。

山岸氏 最近は足の指と、足裏から指へ伸びる神経や血管に注目しています。体の多くを変えられると感じているんです。

足の親指は、頭や首と関わりが深い。経絡と呼ばれる東洋医学の視点で見ても、その出発点の多くが親指から出ています。親指が変形しているのは、芯からの悪い影響が入っている証でもあるんです。

施術で直しつつ、負荷が偏らないようインソールや靴で支えると、そこだけでなく周りの症状も良くなっていく。反射区とは別に、経絡と呼ばれる道筋で見ても、起点は指にあります。小さな部位ですが、指先は侮れないと思っています。

── 小学生の扁平足が増えている、との声もあります。

山岸氏 はい、私の実感としてもその通りです。大規模な追跡研究で、同じ年齢の子どもたちを前向きに比べたものがあります。裸足で外を走り回る保育園と、室内で過ごしがちな保育園とで比較した場合に、足のアーチの形成率が高いのは前者でした。

今は外に出づらくなってきています。夏の異常な暑さや危険もあり。学童保育や児童センターも中心は室内です。足を育てる時期に、その経験が乏しくなっている。食べ物が欧米化してきた影響もあると思います。ただ、オーソティックスを入れて経年で見ていくと、アーチは形成されてきます。

娘の旦那は不安定な足のタイプで、長年の頭痛や腰痛、胃酸の逆流といった症状が出る食道裂孔ヘルニアなどの不調を抱えていました。足を整えたら、そうした症状が出なくなりました。ただ、インソールを使い続けないと、遺伝的な影響でまた元へ戻っていってしまいます。

このような足りない子には、まずご両親が知識を持って、適切な靴とインソールを与え続ける必要があります。不安定な足のタイプは、まだあまり知られていません。病気ではないから、みんな同じだと思われているんです。そこを解きほぐしていきたいですね。